クインシー・ジョーンズ、デイヴィッド・フォスター、スティーヴィー・ワンダー、ジミー・ジャム&テリー・ルイス、ナラダ・マイケル・ウィルデン……数々の大御所がこぞってその才能を買うシンガー・ソングライター、Sheléa Melody Frazier。
今回はこの才女、シェレイア・メロディ・フレイジャーを、7つのポイントに分けてご紹介します。
1. クインシー・ジョーンズとデイヴィッド・フォスターが後押ししている才女
2. スティーヴィー・ワンダーもお気に入り
3. ジャム&ルイスのFlyte Tymeに所属していた
4. シャンテ・ムーアのプロデュースも務めた
5. ブライアン・マクナイトのレーベルと契約直前だった過去も
6. 最新作にはスティーヴィー、テイク6、カーク・ウェイラムら参加
7. クラーク・シスターズの伝記ドラマでドゥリンダ・クラーク・コール役に抜擢
※長文なので面倒くさい人はこの動画だけ観ても彼女の魅力が伝わるはず(さらに時間がない方は7:57~から観ましょう)
1. クインシー・ジョーンズとデイヴィッド・フォスターが後押ししている才女
シェレイアのバックグラウンドを一旦すっ飛ばして、まずは彼女にとって今年最大のトピックから。アメリカのPBS(公共放送サービス)で制作され、今年3月に放送された特別番組『Quincy Jones Presents: Sheléa』(収録・撮影は昨年11月)。その名のとおり、クインシー・ジョーンズが「新たな才能」としてシェレイアのための番組を用意したのです。それも、デイヴィッド・フォスターがスペシャル・ゲストとして、グレッグ・フィリンゲイズが音楽監督として手助けする形で。シェレイアの名を知らぬ人も、気にならない人はいないだろう鉄壁の布陣です。
今年の第71回エミー賞の選考対象にもなったこのスペシャル番組(ノミネートはならず)は、彼女の最新作となるアラン&マリリン・バーグマンのトリビュート盤『Pretty World』収録の楽曲を中心としたジャズ・ナンバーに加え、デイヴィッド・フォスターを迎えてのホイットニー・メドレー、昨夏に亡くなったアリサ・フランクリン追悼メドレーもフィーチャー。最後はジェイソン・マギー&ザ・クワイアを迎えての“I Love The Lord”と、ゴスペルで締め括るという、彼女のジャズ~ソウル~ゴスペルのルーツがしっかりと発揮されたコンサートになっています。
クインシーの紹介から始まるこの番組、やはりもっとも注目はデイヴィッド・フォスターを迎えてのホイットニー・ヒューストン・トリビュートでしょう。『ボディガード』メドレーといった形で、“I Have Nothing”、“Run To You”、“I Will Always Love You”を堂々と披露しています。
元々シェレイアは、ホイットニーの急死の直後に名曲の数々をメドレーで弾き語りするカバー映像をYouTubeにアップロードして追悼するほどのホイットニー・ファン。この動画はバイラルを巻き起こし、当時、ホイットニーの娘=故ボビー・クリスティーナからも賛辞を贈られ、またこの動画をきっかけにナラダ・マイケル・ウォルデンによる追悼コンサートでボーカルを務めるなど、ホイットニーのカバーは今やシェレイアの十八番でもあります。なおナラダは、シェレイアのデビュー・アルバム『Love Fell On Me』にも参加しています。
今やデイヴィッド・フォスターを「メンター」と仰ぐ彼女は、2017年頃からフォスターのコンサートでボーカルを務めるようになった、(デイヴィッド・フォスター&)“フレンズ”のひとり。ハンガリーで収録されたデイヴィッド・フォスターのPBS特番『Zoltán Mága: Live from Budapest with David Foster』(2018年)でも3名のシンガーのひとりとしてステージに立ちました。
『Quincy Jones Presents: Sheléa』の番組中には、スペシャルゲストとして呼ばれたフォスターが、「この地球上の現在生きている人の中で、君ほどの歌手はいない」と彼女を讃える場面も。
デイヴィッド・フォスターとの出会いは不明ですが、おそらくクインシーの紹介でしょうか。そのクインシー・ジョーンズとの出会いは、シェレイアを一躍有名にした存在である、スティーヴィー・ワンダーがきっかけ。
スティーヴィーとの関係については後述しますが、シェレイアは彼のコンサートで歌っており、その音楽監督を務めていたのが大御所リッキー・マイナー。あの“Star Spangled Banner”の名唱を始め、ホイットニーの音楽監督も長らく務めてきた人物です。このリッキー・マイナーがクインシー邸でのプライベート・ライブにシェレイアを呼び、出会ったのだそう。歌声を気に入ったQは、2017年にはドバイにあるクインシー絡みのライブ&レストラン[Q's Bar and Lounge]でのレジデント公演を彼女に任せたりするなど時々にシェレイアを起用し、2018年末になって大々的に「クインシー・ジョーンズ・プレゼンツ」と銘打たれる“クインシーの愛するシンガー”のひとりとなったのです。
ちなみに、この『Quincy Jones Presents: Sheléa』、CD+DVD盤が存在するのですが、一般流通はしていません。ゆえにストリーミング・サービスにも提供されていない、いわばレア盤。唯一、PBSグループに「寄付」することで、特典として入手することが可能です。ただし、CD+ブックレットで84ドル、DVD+ブックレットで120ドル、コンボ(CD+DVD+ブックレット+シェレイア最新作『Pretty World』CD)で180ドルとかなり割高な上に(まぁ元来、売り物ではないですから)、国外発送には対応していない(そりゃアメリカの公共放送の番組ですから)ので、よっぽどの物好き(=私)以外にはお勧めできません。
但し。来週11月30日に米PBSで放送されるデイヴィッド・フォスターのライブ特番『Great Performances: An Intimate Evening with David Foster』は、日本で22日に音源が『An Intimate Evening』としてデジタル配信される予定で、シェレイアによる『ボディガード』メドレーも収録。今回ご紹介したものとは別モノとはなりますが、フォスターとの共演による彼女の歌声を楽しむことができる機会です。
2. スティーヴィー・ワンダーもお気に入り
さて、先ほど触れたスティーヴィー・ワンダー。シェレイアの最初の飛躍は、スティーヴィーに気に入られたことにあります。カリフォルニア州ベーカーズフィールド出身のシェレイアは、オークウッド大学の出身で、同大の大先輩であるテイク6のデイヴィッド・トーマスから連絡を受けて、彼らの2008年作『The Standard』に参加。グラミー候補にもなった同作において、故ロイ・ハーグローヴも参加した“Someone To Watch Over Me”でリードを担当しました。
これを耳にしたスティーヴィー・ワンダーが2011年、自身主宰のチャリティ・コンサート〈House Full of Toys〉に招き、彼女はホイットニー・ヒューストンの“Who Would've Imagined A King”を披露。ここから彼女の道は拓けたと言っても過言ではないでしょう。スティーヴィー・ワンダーは彼女の歌声をすっかり気に入り、以降も度々彼女を呼び寄せて共演。〈Songs In The Key Of Life Tour〉では彼女がバックコーラスも務めています。
また、シェレイアのライブにスティーヴィーが姿を見せたり、シェレイアのアルバムには2作ともゲスト参加していたりと、相思相愛の関係にあります。
スティーヴィーは、2012年5月にホワイトハウスで開かれた、バート・バカラックとハル・デイヴィッドを讃えるイベント〈Burt Bacharach & Hal David: The Library of Congress Gershwin Prize for Popular Song〉でもシェレイアを推薦。彼女はアルトゥーロ・サンドヴァルとの共演で、ディオンヌ・ワーウィックの“Anyone Who Had A Heart”を堂々と歌いました。
ちなみにその後2016年には、同じくホワイトハウスで開かれたレイ・チャールズ・トリビュートにも参加することに。アンソニー・ハミルトンとのデュエットで“(Night Time Is) The Right Time”を披露しています。これもスティーヴィーの推薦で2012年にホワイトハウスで歌った経歴があったからでしょう。
なお、『Quincy Jones Presents: Sheléa』にはスティーヴィーは参加していないのですが、音源ではゲストとしてフィーチャリングしている“Pretty World”を披露する際、シェレイアはスティーヴィーの名を呼び、彼のハーモニカ演奏の音源が鳴るという演出に。不在であってもスティーヴィーの演奏が響くという趣向は、彼女とスティーヴィーの絆の強さを表しているのかもしれません(本来は出演する予定だったのが急きょダメになったのかもしれませんが)。
3. ジャム&ルイスのFlyte Tymeに所属していた
シェレイアはかつて、ジミー・ジャム&テリー・ルイスのプロダクション=Flyte Tyme Productionsの所属作家でした。彼女が在籍していたのはおそらく2004年から2006年頃までで、
・ルーサー追悼作『So Amazing: All Star Tribute To Luther Vandross』(2005年)のファンテイジアによる“'Til My Baby Come Homes”
・映画『シャーク・テイル』サウンドトラック(2004年)でのシェリル・リン“Sweet Kind Of Life”
・映画『ふたりは友達? ウィル&グレイス』のサントラ『Will & Grace Let The Music Out!』(2004年)でのカーリー・サイモン&メーガン・ムラーリー“The Right Thing To Do”
・映画『ホテル・ルワンダ』サントラ(2005年)でのデボラ・コックス“Nobody Cares”
・映画『Akeelah And The Bee』(邦題『ドリームズ・カム・トゥルー』)サントラ(2006年)でのデボラ・コックス“Definition Of Love”
などなど、数々のジャム&ルイス作品でバックコーラスを務めていました。
と書くと、大した活躍がなかったのかと思われますが、特筆すべきはアヴィラ・ブラザーズによる2005年の名作『Mood: Soundsational』。ここで彼女は計3曲に参加していて、ジャム&ルイスも制作に参加した“Let It Go”では「featuring Shelea」としてリード・ボーカルを担当、また“Love's Mystery”ではボビー・ロスのデュエット相手を務めており、加えて“Something To Feel”ではバックコーラスで参加。ゆえに、彼女の(タミアを思わせる)凛とした歌声に聞き覚えがある方も少なくないのでは。
Flyte Tymeの在籍期間は短かったようですが、現在も繋がりはあるようで、Instagramではジミー・ジャムやボビー・ロス・アヴィラから「いいね」を貰うこともしばしば。
また、シェレイアのデビュー・アルバム『Love Fell On Me』(2013年)には、(昔制作した音源のようにも思われますが)アヴィラ兄弟と3人で共作した“I'll Never Let You Go”という、米アダルトR&Bチャート入りした楽曲も収録されています。
4. シャンテ・ムーアのプロデュースも務めた
テイク6の『The Standard』が発売された2008年は、シャンテ・ムーアの現時点における最後のメジャー・リリース(そしてこの10年ほどにおける彼女の最高傑作)となった『Love The Woman』も発売されましたが、シェレイアはここで抜擢を受けます。それは、3曲の楽曲提供およびプロデュース。提供した3曲はいずれもシェレイアひとりで書き下ろしたもので、ジャジーR&Bな“It Ain't Supposed To Be This Way”はアルバムからのリード・シングルでした。シンプルなピアノ・バラードということもあってか、プロデュースもシェレイア自身(別にアディショナル・プロデューサーもいますが)。ボッサ調の“First Kiss”は、シェレイアひとりでプロデュースを担当しています。
いずれもシャンテ・ムーアの魅力を存分に引き出した名曲なのですが、さらに言及しておきたいのが、日本盤限定のボーナストラックとなった“Love Fell On Me”。こちらはシェレイアではなく、2013年に亡くなったジョージ・デュークがプロデュース。逸品です。
さてこの“Love Fell On Me”。後々、この曲はシェレイアの代表曲となります。
2011年に公開された映画『ジャンピング・ザ・ブルーム ~恋と嵐と結婚式~』で、主人公ふたりのテーマ曲として、シェレイア自身が歌った“Love Fell On Me”が起用されることに。そしてこの曲、新たにスティーヴィー・ワンダーのハーモニカをフィーチャーしたバージョンに一新され、2013年に発表された彼女のデビュー・アルバムのリード曲となり、アルバム・タイトルも『Love Fell On Me』となりました(※このアルバムは元々2012年に一度リリースされ、Sony REDの配給契約を受けることとなり、内容を一部改訂して2013年に再リリースされました)。
ちなみにシェレイアは、ヴァネッサ・ウィリアムスの2009年作『The Real Thing』にて、ヴァネッサの代名詞的なヒット“Save The Best For Love”などを手がけた大ベテラン=フィリップ・ギャルドストンと共に書いた“I Fell In”という楽曲を提供しているのですが、自身の『Love Fell On Me』ではこの“I Fell In”もセルフ・カバーしています。
ところで“Love Fell On Me”と言えば、『Love Fell On Me』にはR&B Mixという別バージョンも収録。アレンジが変わっているだけでなく、歌も新規にレコーディングし直されているこのバージョン、YouTube Premiumのドラマ『Step Up: High Water』の第2シーズンに使用されたことで、今年3月になってストリーミング・サービスで配信され始めたんですが。なんとリミックス名がR&B Babyface Remixに!(音源は同じ) え、ベイビーフェイスがリミックスしてたの?!と驚いたのですが、シェレイアとベイビーフェイスを結ぶものは見つからず、このリミックス名が何なのか、謎に包まれております。
5. ブライアン・マクナイトのレーベルと契約直前だった過去も
シェレイアにとって、兄クロード・マクナイト同様にオークウッド大学の大先輩にあたるブライアン・マクナイト。実は彼のレーベルと契約の話があったのだそう。これは彼女がオークウッド大学を卒業し、LAで様々なレコーディング・セッションを経験していた時のこと。そこでブライアン・マクナイトの目に留まり、「君は俺の女性バージョンだ!」と述べ、数曲を彼女のために書き下ろすなど彼女を気に入り、自身のレーベルと契約し、デビューさせようとしたのだとか。シェレイアにとっては願ったり叶ったりなオファーだったようですが、ブライアン側に色々と問題があったそうで、契約の話はうまくいかなったのだそう。
しかし、ブライアンは代わりにアンダードッグス=デイモン・トーマス&ハーヴィ・メイソン・ジュニアに彼女を紹介。これを機に様々な仕事の機会が生まれ、Flyte Tyme入りのきっかけとなるのです。
またブライアンはその後、シェレイアのデビュー・アルバム『Love Fell On Me』にも参加。“Can't Play It Cool”でデュエット相手を務めています。前述したとおり、『Love Fell On Me』は一度、2012年にリリースされており、2013年の再発版はけっこう内容が異なるのですが、この“Can't Play It Cool”も元々はブライアン抜きのバージョンでした。再発版になってのブライアンの参加は、契約の話こそ実現しなかったものの、彼の中のシェレイアの評価の高さが変わっていないことを物語っているように思えます。
ちなみに彼女はそれより以前(おそらく大学在学中)に、「デスティニーズ・チャイルドのゴスペル・バージョン」だったというフォーギヴン(IV Given)なる4人組ガールズ・グループの一員でしたが、実はこの時もBlackground Recordsとの契約が決まりかけていたそう。しかしグループというのは難しいもの。振り返れば4人それぞれが別々の方向性だったそうで、グループそのものがうまくいかなかったのだとか。それでも彼女にとっては、音楽こそ生きる道だと自覚できた、よい経験になったそうです。
Blackgroundは、アリーヤのおじ=バリー・ハンカーソンらが興したレーベルで、アリーヤやその周辺アーティストの作品リリースで知られるところ。一方、トニ・ブラクストンやジョジョとは契約問題で裁判沙汰となるなど、あまりいい話も聞かないレーベルでもあり、Blackgroundからデビューしなくてよかったかもしれませんね。
6. 最新作にはスティーヴィー、テイク6、カーク・ウェイラムら参加
シェレイアのディスコグラフィは少々ややこしいことになっています。まず、元々は2012年にリリースされ、Sony REDのディストリビューションにより2013年に一部刷新されて再発されたデビュー・アルバム『Love Fell On Me』。Spotifyでは日本は一部曲を除いて未配信の状態となっています。
『Love Fell On Me』には先述のとおり、スティーヴィー・ワンダー参加の“Love Fell On Me”やブライアン・マクナイト参加の“Can't Play It Cool”を収録するほか、ソングライター/プロデューサー陣として、アヴィラ・ブラザーズ、サイーダ・ギャレット(マイケル・ジャクソン“Man In The Mirror”)、ナラダ・マイケル・ウィルデンらも参加しています。
続けて2016年には『You』を配信限定リリース。“Can't Play It Cool”のブライアン・マクナイト不参加バージョンなどが収録されていますが、それもそのはず、これは『Love Fell On Me』の2012年バージョンにのみ収録されていた楽曲(“I'm Sure It's You (The Wedding Song)”など)を中心にまとめたもの。『Love Fell On Me』の両バージョンともに未収録なのは、“Little Angle Boy”と“Because Of You”の2曲だけかな?
というわけで実質的な2ndアルバムは、今年3月に発売された最新作『Pretty World: A Tribute To Alan & Marilyn Bergman』。数々の名曲の作詞を手がけてきたアラン&マリリン・バーグマンの楽曲を取り上げたソングブックです。
第一弾リード曲となったのは、1995年の映画『サブリナ』の主題歌としてスティングが歌ったナンバー(作曲はジョン・ウィリアムス)で、第68回アカデミー賞の歌曲賞や第39回グラミー賞の候補となった“Moonlight”。サックスにカーク・ウェイラムを迎えています。カーク・ウェイラムは、ホイットニー版“I Will Always Love You”のあのサックス奏者としても知られるベテラン。2014年の来日公演にはシェレイアを引き連れており、2015年発売の実況盤『The Gospel according to Jazz, Chapter 4』にもシェレイアは参加していました。
“Moonlight”に続くリード曲は、表題曲“Pretty World”。
これは元はウィルソン・シモナルが歌った軽快なジャジー・ボッサ“Sá Marina”(1968年)が原曲で、セルジオ・メンデス&ブラジル'66が翌年、『Crystal Illusions』において、“Pretty World”というタイトルで、バーグマン夫妻による英詞でカバー。さらにその翌年に発表されたスティーヴィー・ワンダーのライブ盤『Stevie Wonder Live』でオープニングで披露されたことでも知られる曲です。
というわけで“Pretty World”のカバーにはスティーヴィー・ワンダーご本人が降臨。曲の雰囲気としてはセルメン版に近いながら、スティーヴィーのハーモニカが響く仕上がりとなっています。
さらに『Pretty World』には他に、テイク6、グレッグ・フィリンゲイズ、スティーヴィー・マッキー(ジェニファー・ロペス、ケリー・ローランドら数々の女性シンガーのボーカル・コーチを務める人物)がゲスト参加しています。
『Love Fell On Me』は、悪い意味で長いこと裏方をやってきた人の作品らしい、方向性の散漫さが気になる面がありましたが、『You』は彼女のジャジー・サイドとバラードに振り切った構成に。そして最新作『Pretty World』では完全にスムース・ジャズの世界に踏み入りました。
このアルバムは、ASCAPによるソングライターの集まり〈We Write the Songs〉にて、ナラダ・マイケル・ウィルデンが彼女とバーグマン夫妻を引き合わせ、ナラダが提案したことで生まれたのだそう。バーグマン夫妻自ら選曲した中には、“The Easy Way”など、これまで未発表だった曲が今回を機に陽の目を見たものも。ゆえに、特別なプロジェクトとなったようです。
この『Pretty World』、日本のSpotifyではなぜか未配信(Apple Music等にはあるけど、Amazon Musicにはなかったり、何なんだろ)。またフィジカルCDは一般流通はされていませんが、彼女の所属するインディ・レーベルのBreath Of Life Recordsの公式ストアでは購入可能です。
ちなみに、『Love Fell On Me』再発版のディストリビューションはソニー系列のREDが担当していたのに対し、『Pretty World』はユニバーサル系列のインディ・レーベルであるBungalo Recordsがディストリビューションを担当しています。
7. クラーク・シスターズの伝記ドラマでドゥリンダ・クラーク・コール役に抜擢
ビヨンセ、マライア・キャリー、フェイス・エヴァンスら錚々たる女性シンガーたちに多大な影響を与えた伝説的なゴスペル・グループ、クラーク・シスターズ。「世界でもっとも売れたゴスペル・グループ」とも言われる彼女たちの偉大な功績を描く伝記ドラマを、ミッシー・エリオット、メアリー・J.ブライジ、クイーン・ラティファらがエグゼクティヴ・プロデューサーとなって製作されることが昨年11月に発表されました。
『The Clark Sisters: The First Ladies of Gospel』というタイトルとなるこのドラマ、今年3月になってキャストが明らかになり、クラーク・シスターズのひとり、ドゥリンダ・クラーク・コールをシェレイアが演じることが発表されたのです。
カレン・クラーク・シアード役は、カレンの実の娘であるキエラ・シアードが演じ、このキャストによる歌声の監修にはドナルド・ローレンスが関与。アン・ヴォーグのボーカル・コーチを務めたことでも知られ、クラーク・シスターズのプロデュース経験もあるベテラン・ゴスペル・アーティストです。このドラマでは、録音された音源に口を合わせる「リップシンク」ではなく、実際にキャストがその場で歌うことになるそうで、クラーク・シスターズのキャストたちによる歌の練習風景の映像も公開されています。
監督は、クラーク・シスターズと同じデトロイト出身のクリスティン・スワンソン。「黒人女性の脚本、黒人女性のプロデュース、黒人女性キャスト、黒人女性の監督による映画」ということでも話題です。
ドラマは2020年1月に米Lifetimeで放送予定。プロモーション等も兼ねて一部キャストで一緒に歌ったりする場面もあり、いずれ全員揃ってのパフォーマンスなんかも拝めそう。放送直前とか、あとは3月に開催される〈Stellar Awards〉とか?
また、カレン役のキエラ・シアードは、ミッシー・エリオットをゲストに迎えた“Don't Judge Me”を今夏に発表していましたが、このドラマきっかけのコラボがさらに生まれることも期待したいところ。
後記
この記事は、米時間で11月20日朝に発表される第62回グラミー賞ノミネーションを意識して書きました。クインシーたちがここまで後押ししているわけだし、ジャズ部門でのノミネートの可能性は高いんじゃないかと。そして是非、再来日&日本で初の単独公演なんかもあったらいいなぁ……という期待を込めて。ノミネートされてなかったらどうしよう。まぁ日本で22日に配信リリースのデイヴィッド・フォスター『An Intimate Evening』に参加しているので、その前哨戦ということで。ちなみにこちらでは和名表記が「シェリー・フレイジアー」という悲しいことになっていたので、シェレイアだよという念押しも込めてみましょう。
なお、最初に日本で紹介した際、「シェレーエ」という和名表記にしてしまいました。これは当時、どう発音されているか色々調べてた際に実際にシェレーエと言う人がちらほらいたからで、中にはシェレイアと言う人もいたのですが、前者を優先してしまった次第。当時は彼女の露出自体が少なかったので判断材料が乏しかったことも原因です(彼女自身の発音は「シェレイェァ」と最後をはっきり発音しないことも多い)。カーク・ウェイラムの来日公演で「シェレイア」と呼ばれていたのでムム?と思っていたのですが、ここ数年の露出増でみなさん「シェレイア」に発音が統一されてきたようなので、本稿もシェレイアとしております。クインシーも「シェレイア」って呼んでるし。